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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)3483号 判決 1958年5月06日

主文

原判決中判示第一及び第二の事実に関する部分を破棄する。

右事実につき被告人を免訴する。

原判決中判示第三の事実に関する部分に対する上告を棄却する。

理由

弁護人鍛治利一、同山村利宰平の上告趣意は、憲法違反をいう部分もあるけれども、その実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権で調査をするに、原判決は同一の婦女に関する労働基準法(以下労基法という)六条、一一八条の罪と職業安定法(以下職安法という)六三条二号の罪とは、刑法五四条一項前段の一個の行為にして二個の罪名に触れる場合に当るものと解すべきではないとの見解に基き、これと反対の見解の下に、原判示第一、第二の罪につき免訴、第三の罪につき有罪を言渡した第一審判決を全部破棄したものである。けれども、労基法六条の規定は「何人も法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」というのであり、職安法六三条二号の規定は「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」は、これを所定の懲役又は罰金に処するというのであって、両者はその構成要件の中核をなす他人の就業への介入という部分において重り合うものであるから、一個の行為であって両者に該当する場合のあり得ることを否定することはできない。そうして、これを本件について見ると、原判示第一、第二の各所為はいずれも、被告人が法定の除外事由なくして、業として同一の婦女を、公衆衛生又は公衆道徳上有害な売淫婦の業に就かせる目的で、婦女に売淫をさせることを業としている者に、接客婦として就業を斡旋し、雇主から紹介手数料として金員を受領し利益を得たというのである。従ってそれが労基法六条、一一八条及び職安法六三条二号に該当することは明白であるが、その所為は、これを社会的事実として観察するときは、一個の行為と認められるのであって、刑法五四条一項前段の解釈としても、一個の行為にして労基法違反と職安法違反との二個の罪名に触れる場合に当るものと認めるのが相当である。次に記録によれば、被告人は第一審判決判示の如く、昭和二八年一一月三〇日発布同年一二月二二日確定の略式命令により職安法六三条二号の罪につき有罪として処断されたのであるが、その略式命令認定の所為中(一)及び(三)の所為については、その都度紹介手数料として金員を受領し利得をしたものであり、かつその所為を反覆継続の意思を以て業としたものと認められるから、その所為は、原判示第一及び第二の所為について先に説明したと同じ理由によって、一個の行為であって同時に職安法六三条二号の罪と労基法六条、一一八条の罪とに該当するものと認めるのが相当である。そうして右の労基法違反の罪と原判示第一及び第二の労基法違反の罪とは一個の集合犯(営業犯)として単一の犯罪を構成するものと認められるから、この一個の労基法違反の罪を媒介として前記略式命令認定の(一)及び(三)の職安法違反の罪と原判示第一、第二の各職安法違反の罪ともまた一罪の関係に立ち、従って右略式命令の既判力は原判示第一、第二の事実全部に及ぶものといわなければならない。然らば、労基法六条、一一八条の罪と職安法六三条二号の罪とが刑法五四条一項前段の一所為数法の関係に立つことを否定する見解に基き、第一審判決を破棄し、原判示第一及び第二の事実につき有罪の言渡をした原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、原判決中この部分はこれを破棄しなければ著しく正義に反すると認めなければならない。

よって、原判決中判示第一及び第二の事実につき有罪の言渡をした部分につき刑訴四一一条一号、四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三七条一号を適用して、これを破棄し、右事実につき被告人を免訴し、原判決中判示第三の事実に関する部分は、前記略式命令確定後の犯罪にかかわるものであって、右免訴の部分と可分の独立した裁判であり、この部分については同四一一条を適用すべきものと認められないから、これに対する上告は同四一四条、三九六条により棄却することとし裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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